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  • 公開日:2020.09.04

【現役医師に聞く】長期処方を希望する患者さまにはどう対処すればいい?長期処方のリスクとは?

【現役医師に聞く】長期処方を希望する患者さまにはどう対処すればいい?長期処方のリスクとは?

新型コロナウイルスが世界的に猛威を振るうなか、日本は感染者数が緩やかな減少傾向にあり、落ち着きを取り戻しつつあります。全都道府県を対象に発出されていた緊急事態宣言も解除され、休日に外出する方も増えてきました。

しかし、いまだに感染リスクが高いと思われがちな医療機関への立ち入り。「できるだけ通院を避けたい」と希望する方は、思いのほか多いもの。通院回数を減らすために、薬の長期処方を希望する患者さまに遭遇する機会も多くなっていることでしょう。

そんなとき、薬剤師としてどのような対応をすればよいのでしょうか? 今回は、薬の処方量の制限と薬剤師がすべき対応について詳しく解説します。

そもそも薬を処方できる期間の上限に決まりはあるの?

薬は大きく分けて「市販薬」と「処方薬」の2種類に区別されます。市販薬とはその名の通り、薬局やドラッグストア、インターネット通販などで広く販売している薬のことです。一部の市販薬は薬剤師と対面で購入しなければならない決まりがあるものの、医師の処方箋がなくても基本的には自己判断で購入することが可能です。

一方、処方薬は医師から発行される処方箋なく購入することはできず、多くが保険診療の適応となります。「医師の許可がなければ購入することができない」というのは、その分副作用などの危険性も高いということ。そのため、以前は医師によって処方される薬の量には一定の上限が定められていました。つまり、高血圧や糖尿病などの慢性疾患の患者さまは、薬を継続して処方してもらうために短いスパンでの通院を重ねなければならなかったのです。

しかし、2002年の診療報酬改定により、一部の薬を除いて、処方量の上限は廃止されることになりました。症状が安定している患者さんに関しては、90日以上などの長期にわたる処方をすることが可能となったのです。

処方量に上限があるのはどんな薬?

法改正によって処方量に上限がなくなったとはいえ、どんな薬でも医師の裁量で自由に長期処方できるようになったわけではありません。

医療用麻薬や向精神薬、睡眠薬など依存性があり、大量使用によって命を落とす可能性のある薬や不当な売買が起こりやすい薬などは、30日までしか処方できないものがあります。また、発売から1年未満の新薬は原則的に14日までしか処方できないことになっています。そのほか、診療報酬上は、市販薬で十分に代替可能な湿布薬も依存性や危険性は低いものの、一処方箋につき70枚までしか処方することができません。

長期処方にはどんなリスクがあるの?

処方のイメージ

基本的に、上でご紹介した特定の薬以外は、一度に処方できる薬の量に制限はありません。そのため、「半年分出してほしい......」、「できるだけ長く出してほしい......」と要望される患者さまも珍しくないでしょう。しかし、薬の長期処方には少なからずリスクもあるため、少ない量での処方箋しか作成しない医師も少なくありません。では、薬の長期処方にはどのようなリスクがあるのか詳しく見てみましょう。

定期的な検査や診察ができない

高血圧や糖尿病、脂質異常症などの慢性疾患の症状が数年にわたって安定している患者さまは、「いつもと同じ薬しか処方されないのにどうして毎回病院に行かなくてはならないの?」と疑問に思うことも多いはず。

確かに、症状が安定している慢性疾患であれば、30日ごとの検査や診察は必要ないケースもあるでしょう。しかし、私たちの身体に「絶対」はありません数年間状態が変わらなくても、突然変化することは誰にでも起こり得ます

そのような身体の変化に気づいて、可能な限り早く対処するのは健康を維持するうえでの必須事項です。一度にあまりにも多くの薬を処方してしまうと、患者さまの通院の機会が減るため、その分病気の悪化などを見逃してしまうリスクが高くなります

効き目を確認できない

また、長期処方は、薬の効き目を確認できないのもデメリットのひとつです。とくに、効きすぎると脳内出血など命に関わる病気を引き起こす抗凝固剤や、効果が変動しやすい血糖降下薬などを、何のチェックもなく漫然と使用し続けるのは非常に危険です。

このようなタイプの薬はたとえ処方量に上限がないと言っても、あまり長い期間処方することは通常ありません。医師の見解によっても異なりますが、やはり30日処方程度にしているケースが多いでしょう。

服薬コンプライアンスを維持しにくい

服薬コンプライアンスとは、患者さんが医師や薬剤師の指示に基づいて適切な服薬を続けることです。毎日飲む薬であっても、毎日忘れずに正しい回数を飲むのは思いのほか難しいもの。とくに長期処方を受けた方は、薬の過不足を確認しにくく、通院の回数も減っていくため服薬コンプライアンスをキープしにくいデメリットがあります。

認知機能が低下しつつある高齢者などは、とくに薬の飲み忘れや服用回数の誤りなどを生じやすいため、注意が必要です。薬の長期処方をすれば、患者さま自身の自己管理能力が必要になります。医師は、一見治療中の病気とは関係ないように思える認知機能などの面からも、長期処方の可否を決めているのです。

<新型コロナウイルスの影響で処方量はどう変化した?>


薬の長期処方にはそれなりのリスクがあります。そのため、平常時であれば症状に変化がなくても定期的な検査や診察を受けることが勧められていました。しかし、新型コロナウイルスの影響を大きく受ける現在、厚生労働省などは「不要不急」の受診を避けるよう警鐘を鳴らしています。その甲斐あってか、調剤薬局で取り扱われた処方箋は前年よりも10%ダウンしています。

とくに小児科と耳鼻咽喉科は30%以上も処方箋数が減っていることがわかりました。逆に透析治療を受けている方など、代わりの治療法がない診療科は処方箋数に大きな変化がありません。また、現在は電話やテレビ通話によるリモート受診も多く見られるようになっており、さらに長期処方を受ける方も増えていくのではないかと考えられています。

薬剤師は長期処方を希望する患者さまにどう対処すべき?

処方のイメージ

最後に、長期処方を強く希望する患者さまに遭遇したときに、薬剤師はどのように対処すればよいのか事例ごとに詳しく解説します。

強い不満を表している患者さまの場合

長期処方の要望を医師から断られた患者さまのなかには、最後に対面する医療従事者である薬剤師に思いをぶつける方も決して少なくありません。このような患者さまに遭遇したときは、なぜ長期処方ができないのかを丁寧に説明するようにしましょう。患者さまの強い希望を却下したということは、診察した医師にも長期処方が不適切と考える理由があるはず。薬の種類や全身の状態などから理由を探し、わかりやすく説明することが大切です。

医師には言えないのだけど......というタイプの患者さま

薬剤師は患者さまが薬を受け取るという、「受診の最後」に対面する医療従事者です。そのため、医師や看護師には訴えにくかった悩みなどを相談されることもあるでしょう。薬の長期処方についてもそのひとつ。医師には長期処方の要望を言い出せなかったものの、薬剤師に相談するケースは多々あります。

このようなタイプの患者さまに遭遇したときは、上記と同じく薬の種類や状態から長期処方に適切かどうか判断しましょう。そして、長期処方も可能と考えられるときは薬局から医師に問い合わせをすることも大切です。

薬の長期処方はメリットもデメリットもある!

薬の長期処方は、通院にかかる負担を減らし、医療費の抑制につながるなどのメリットがあります。一方で、今回ご紹介したようなデメリットもあることを忘れてはいけません

患者さまから長期処方の相談を受けた場合、薬の種類や治療経過などを確認して、「なぜ長期処方ではないのか」丁寧に説明しましょう。また、薬剤師自身でも長期処方できない理由がわからない場合は、医師に問い合わせることを忘れないようにしてくださいね。

成田亜希子先生の写真

成田 亜希子(医師ライター)

一般内科医として幅広い分野の診療を行っている。保健所勤務経験もあり、感染症や母子保健などにも精通している。日本内科学会、日本感染症学会、日本公衆衛生学会、日本健康教育学会所属。

記事掲載日: 2020/09/04

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